「いまの知識や考え方を持って、高校時代を過ごせたらとは思いますね」
余暇を過ごす読書のスタイルも変わった。主にノンフィクションを好み、考えが合わないと途中で放り出していたが、頭をからっぽにして読むことを覚えた。いったん丸のみし、かみ砕き、必要なものをそこから抽出する。
「サッカーだけではなく、人として成長していく。自分を鍛えることが、周りを大切にし、チームを強くすることに繋がる。土台がゆるゆるだったから、そこからつくり直しです。
城はけっこう立派だったんですが、ベースが安定していなかった。じっくり時間をかけて自分をつくっている楽しさはあります」
そこにもっと早く気づけば、と思うことはあるのだろうか。
「いまの知識や考え方を持って、高校時代を過ごせたらとは思いますね」
それは多くの人が思いを同じくするところだろう。なんで僕は最初のデートで背伸びして美術館とか行っちゃったんだろうなぁ。シャガールなんて、全然興味がなかったのに。
「そっちのほうは別に。最初からうまくできたし、むしろ得意なほう。サッカーの話ですよ」
君はアレか、話を合わせるということを知らんのか。この場の潤滑油的に軽くボケただけなんだから、さっと流してくれればいいんだ。そういうところだぞ、小林祐希。
「ヴェルディの頃、気づけていればどうだったかな……。追い詰められて、サッカーが楽しくない、楽しくできるところでやりたい、そうやって今思えば逃げていたんですけど、新しいところでチャレンジする自分への期待のほうが大きかった。
さみしさはあるけど、後悔はしていません。自分を築き上げるための選択だったと思えます」