「サッカーってほんとはシンプル」。周りを生かすことで気付いた
僕が静岡県磐田市のヤマハ大久保グラウンドを訪ねたのは、今季の開幕を翌週に控えた2月26日のことだった。
「昨年は、周りの人たちが何を考え、どうしたいのか、それを理解するためにコミュニケーションをとった1年でした。おかげで今年はいい意味で余裕があります。同世代の選手が試合に出て活躍しているのに、自分は出ていない。もうすぐ22歳になる。焦りはもちろんあるけれど、焦ってはいないです。
時間に追われることなく、自分が時間をコントロールする。メンタルの状態に左右されることなく、安定したパフォーマンスを出す。いつ使われてもいいように、準備はできています」
小林は落ち着きはらった口調で語る。
「プレーも変わりました。おれがおれがタイプだったのが、とりあえずそれは後回しにして、周りを気持ちよくプレーさせることを考え始めました。去年の途中くらいかな。あ、コレだと気づいて、試してみたらうまくはまったんです。
道がぱっと開ける感覚でした。周りを生かしていけば、最後は自分のところにボールがくる。あとはゴールを狙うだけ。サッカーって簡単なんですよ。ほんとはシンプルにできているのに、自分でごちゃごちゃ考えて難しくしてしまいがちなんです」
むだ走りをして、味方のためにスペースを空ける。そんなプレーも率先してやるようになった。以前だったら、なんで自分がむだな動きをしなきゃいけないんだよと口を尖らせるところだが、いい動きをすればわかってもらえる実感があった。
見ている人はちゃんと見ている。支えとなったのは、そんな言葉である。
「そんなわけねえじゃんと思ってたんですけどね。これはやり続けなければ意味がないんです。練習試合を含めて年間50試合あったとして、1試合でもサボったらダメ。その1試合だけを観にくる人がいるかもしれない。
たとえば、渋谷亮(中央大4年)や山浦新(慶応大4年)にはそういった緩みがない。あいつらは50試合全部やり切ります。去年は試合に出られなかったから、なおさら強くそう思ってやり続けました」