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【連載】サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』<第四話>天使か悪魔か。経営破綻寸前のクラブに微笑む半グレ風情のスーパーマーケットチェーン社長

【第四話】漆黒の女 
Black jacket woman

 内戦の爪痕が舗装道路や住宅の連なりを壊すと、区境(くざかい)は以前にも増して意味を持った。富裕層の多さを反映してか、世田谷区は都内でもっとも平和な空気を保っている。戦時は国連平和維持軍が出動していたこの区に、いま装甲車や歩兵の姿はない。自衛隊の戦車もせいぜい新宿通りや靖国通りを闊歩するにとどまり、こちらには姿を現さないようだ。
 一二月、23区の西を勢力圏とするプロサッカークラブ、セントラルの本拠地でもあるこの街に、ぼくは目黒区から足を踏み入れていた。駒沢通り沿いに駒沢公園から深沢不動交差点へ。こじゃれたカフェ飯屋で腹ごしらえをして、駒沢公園通りを北上、国道246号線へと出ると、そのまま三軒茶屋まで歩いた。何か営業のヒントは見つからないかと始めたこの散歩は、地元の湾岸地域で仕事がうまくいっていない現実から眼を背ける助けになった。
 将来的な市民クラブ化構想も既報の経営危機も興味を引かない。ぼくらは忘れられた存在だった。
 銀星倶楽部の貧乏物語はシンプルだ。
 もともとファンをあてにしない体質だったところにスポンサー料の激減で財源不足に陥った。
 今後はスター選手を売り、ファンが離れ、入場料とグッズ収入が減るサイクルにはまっていくだろう。何かを起案してもカネもひとも足りない状況で手が回らない。野放図なお客さんを上手にたしなめることも、座席の掃除もままならず、スタンドが荒れる。行き着く先は資金ショートを起こし、ホームゲームを自力で開催できなくなり年度末に会員資格を停止される未来だ。
 大手企業に接触することすらままならず、商店主など資産を持った個人にも相手にしてもらえない状況で、商工会議所品川支部青年部の幹事長が会ってくれた。でも答えはNOだった。
《特に強制ではないのですが、商工会全体としては、これからはセントラルに傾注しようということになっておりまして――》
 世田谷区と杉並区、それに武蔵野市と三鷹市を中心とする住宅街に支持基盤を拡げるセントラルは、下北沢や高円寺や吉祥寺辺りにたむろする流行に敏い二〇代にも受けがいい。もちろん、この三軒茶屋でも。
 商店街の電柱や軒先にはクラブカラーを示す紫色のフラッグが掲げられている。両者の関係につけいる隙は見当たらなかった。
 ――平時の意識が破られる。
 頬に微妙な空気の振動が当たった。
 予感は振り向きざまの光景をもって確信へと変わる。
 辺りをつんざく爆音。
 マンホールの蓋が飛び、火柱が上がった。同時に、世田谷通りを南下してきた医療費の値上げに抗議するデモ隊が、アメリカンフットボールで言う「ショットガン」のレシーバーのように、迷いのない速さで散開し、周囲に飛び出していく。
 買い物客でごった返す平穏は唐突に終わった。

続きは、サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』特設サイトで。

エンダーズ・デッドリードライヴ

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