挫折を経験した南アW杯。それを乗り越えたアヤックスでの3シーズン
さかのぼる事4年前の2010年5月、私はデンマークの首都コペンハーゲンの北にある小さな港町ヘルシンオアで南アフリカW杯直前合宿を張るデンマーク代表を取材した。
当時、私が住んでいたアパートから徒歩数分の距離にある練習場でのダニッシュ・ダイナマイトの合宿は非常にオープンだった。驚くべき事に、ナショナルチームのスター選手たちが練習している真横のコートで小さな子ども達がサッカーを楽しんでいたのだ。
そんなアットホームな雰囲気の中、ゲーム形式の練習が始まると2メートル近い大男たちの真ん中で一際小柄な少年のような選手が柔らかなボールタッチと鋭いパス、的確なポジショニングで異彩を放っていた。それがエリクセンだった。
当時はオーデンセのユースから引き抜かれたアヤックスでトップチームデビューしたばかりの18歳。とはいえ、デンマーク代表では既に3試合に出場し国内では次世代のスターとして大きな期待をかけられた存在だった。
そんなエリクセンに練習後、声を掛けると屈託の無い笑顔で応えてくれた。私が日本のライターだと伝えると「東京はどんな街なの? 人口が多いって本当?」「トヨタ、日産、ホンダ、パナソニック…、日本は憧れだよ」と目を輝かせていた。
大会最年少として臨む南アW杯への意気込みを聞くと「若くしてW杯へ出場できるのは名誉なこと。状況次第では第3戦の日本戦に出場できるかもしれないので、しっかり準備したい」と熱っぽく語っていた。
しかし、途中出場した初戦オランダ戦と日本戦でチームは敗戦。特にグループステージでの敗退が決定した日本戦後にはひどく落胆した様子だった。
彼にとって恐らく人生初の挫折とも言える敗戦だったのだろう。「彼の将来に暗い影を落としてしまうのではないか?」そう思わせるほど悲壮感漂う表情をしていた印象だった。
ところが、その後の10-11シーズンにはアヤックスの中心選手として03-04シーズン以来7シーズンぶりの優勝に貢献。そのシーズンのクラブとリーグの若手最優秀選手に選出。11-12、12-13シーズンと3連覇を果たしたチームのエースとして活躍した。