遠いようで近い、近いようで遠いバルサの哲学
ここまで、監督として絵に描いたような理想的なキャリアを積んできたクロップは、バルセロナやマンチェスター・ユナイテッドといった世界的なビッグクラブの監督候補に挙げられている。
まず、伝えておかなければならないのはクロップ監督が2013年10月に2018年までの契約延長にサインしているということ。契約を4シーズン分も残しているということは、招聘したければ違約金を支払わなければならないのだ。
もちろん、バルサもユナイテッドも多少高額であっても支払えるだけの財力はあるだろう。しかし、ドルトムントも手放す事を望むはずもないため、交渉はかなり難しいものになるはずだ。
戦術的には、クロップ監督のゲーゲンプレッシングはペップ・バルサをモデルにしていると言われている。ただ、これはかなり先鋭的な見方によるものであるため、「だからバルサなら合う」とは言いがたい。
クロップ監督によると、ポゼッションサッカーはオーケストラのように優雅で美しいが、ゲーゲンプレッシングは泥臭いヘビーメタルのようなもの。そして、クロップ監督はヘビーメタルが大好きという。
バルサは「70%や80%のポゼッション率こそ正義」というクラブだ。逆に、ドルトムントは40%のポゼッション率で4点を奪い、相手にポゼッションで上回ると負ける確率の方が高いチームである。
一方で、やはりモデルにしているだけあって前線からハイプレスをかけてボールを奪う組織的な守備は共通する点だ。真逆な攻撃のアプローチと共通する守備のアプローチという意味では遠いようで近い、近いようで遠い哲学と言えるだろう。それゆえ、大成功する可能性もあれば、大失敗する可能性もある。
ただ、若くカリスマ性を備えた監督はそうそう居ないため、ヘラルド・マルティーノ監督の下、「普通のチームになった」と言われてしまっているバルサにとっては、クロップ監督は一か八か賭ける価値のある人物ではありそうだ。
クロップ監督がリオネル・メッシ、チャビ、アンドレス・イニエスタを指揮すればどんなチームになるのかも興味深い。
“無難な線”を選ぶならば、噂が上がっている中ではクラブOBでもあるセルタのルイス・エンリケ監督がベストな人材だと思う。