親日国・タイ、サッカー界でも求められる「日本」
日本の指導者たちは実際、タイサッカーにうまく「日本流」を浸透させることができるのだろうか。
昨季途中からナコンラーチャシーマーFCを率いる神戸監督は、フィリピン、グアム、北マリアナ諸島の代表監督などを歴任した豊かな国際経験を生かして指揮をとる。
「フィリピンなどでの経験があるので、日本のやり方を持ち込むだけではダメだというのはわかっています。グラウンドの中でも外でも『規律』は大切ですが、あまり厳しくしすぎてもいけない。俺はこういうふうにやるよ、というのを一度示しておいてから一歩引いてみたり、そのあんばいは自分のなかでわかっているつもりです」
選手時代から通算すればタイで6シーズン目を迎えているランシットFC・丸山監督も、試行錯誤しながらの挑戦の日々だ。
「タイ人の監督とはやり方が違うところもあると思いますが、チャレンジしないと自分にフィードバックもないので、今はいろいろやっているところです。『日本の血』を上手に入れられたら、と思いますが、今までの歴史を一気に変えるのは無理。時間も必要だし、忍耐強くやらなければいけないと思っています」
どの監督にも共通しているのは、決して無闇に日本のやり方を押し付けることはしていないということだ。日本人監督が率いるクラブには全て日本人選手が所属してはいるものの、「日本人だからといって特別扱いはしない」という意識も共通して強く感じられる。
日本人として求められているものは理解しつつも、タイの文化も十分に考慮しながらバランスをとっているという印象だ。そうした日本人ならではの気配りやバランス感覚もあってか、今のところ不協和音のようなものも特に聞こえてはこない。
タイには現在、7000を超える日系企業が拠点を置いており、バンコクには世界の首都中で最多の日本人が住むと言われる。タイという国はもともと、単に「親日国」という言葉では語りきれないほどに「日本」が自然に浸透している国でもある。
日本サッカーがアジアをリードする存在となった今、両国の親密な関係を考えれば、サッカー界でもタイで「日本」が求められるのはごく自然な流れなのかもしれない。
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