ゴトビ監督の思い、原口が感じたサポーターへの愛
違和感を覚えていたのは、記者や視聴者だけではなかった。無観客試合の空気について「スタジアムに魂が欠けていたように感じる」と表現したのは、清水のアフシン・ゴトビ監督である。
イラン出身でアメリカ国籍のゴトビ監督は2011年、ジュビロ磐田との試合前にとあるサポーターから人種差別的なメッセージを受けていた。そんなゴトビ監督は、日本人のあるべき姿を指摘しながら、会見冒頭およそ4分間にもわたり人種差別の醜さを訴える。
「人と人に違いがあるからこそ、世界というものは美しい。私がサッカーを始めた頃、サッカーボールは白と黒の二色だった。今我々が使っているボールには多くの色が使われている」と独特の比喩を用い、分かりやすい英語で多様性を主張した。
「正直、難しかった」と言葉を絞り出すように吐露したのは浦和の原口だ。初となる無観客試合を体験した原口は試合後、「サポーターの力によって突き動かされる部分は非常に大きいなと本当に感じた」と話している。
そんな原口が次の瞬間、珍しく弱気な一面を見せた。「(サポーターに突き動かされていることについて)特におれはそうだな、と思った」と言うのである。
なんでも原口は、いざプレーしてみると気持ちの部分で難しさを感じ、ハーフタイムに槙野智章らから「おまえどうしたの?」、「覇気ないぞ」と気にかけられたのだとか。「いつもと同じプレーができるようイメージし、そういう準備をしてきたつもりだったが、同じようなメンタルではプレーができなかった」と無観客試合の難しさを正直に述べる。
この時の原口には、完全に哀愁が漂っていた。その様子には彼のサポーターへの愛がそのまま滲み出ていた。この新エースは「いやー…サポーターは大切な仲間だと感じた。また一緒に戦っていきたいなという気持ちが大きくなった」としみじみと語り、ミックスゾーンを後にした。