小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』とは?
サッカー界の覇権を争う巨人に挑むエンダーズ<隅っこに追いやられた者>の物語。
差し出すカネがないのなら、弱者は何を差し出せばいい。
いま、1部残留と破綻回避にかけた最後の一年が始まる……。
2020年の東京オリンピック開催を契機とする経済浮揚計画が進行、時ならぬ建設ラッシュとそれに伴う異民族大量流入が発生し、日本列島は国家全体を挙げての再開発に沸き立った。
大規模な規制緩和の波と国家戦略特区の設置がダイナミックな地殻変動に拍車をかけた。
しかし好況の光は格差拡大の影をも生む。
わけても東京では外国人労働者と若者とのあいだで職の奪い合いとなり、貧しさに耐え切れぬ民により60年安保闘争以来の実践的反政府活動が顕在化した。
2024年、下層階級の抵抗運動が各国で多発、インターネットを通じたリンケージによって世界同時内戦に拡大した。その状況に呼応するように日本でも「遅れた春」と名乗る組織を中心としてスクワット(Squat)運動が勃発、貧民が不法占拠地域を増やしながらゲリラ闘争を仕掛け、ついに内戦に突入した。
はじめからわかっていたように、各国の反乱は粛々と鎮圧された。
半年以上も引きずった抗争の末、荒れ果てた日本の国土を耕すには、さらなる規制撤廃が必要になった。大量の自殺者を肥やしに何人もの成金実業家が喉を潤し、産業界と政界の中枢に喰い込む。その影響はサッカー界にも及び、閉鎖的だった構造は金持ちの手によってこじ開けられる。
外資参入許可、株式売買自由化、ワンオーナー制導入が大量のマネーを呼んだ。そして投機や運用の対象となったプロクラブは膨張の一途を辿り、英国、中国、カタールのそれに優るとも劣らぬメガクラブ誕生の素地がつくられた。
だが、宿痾(しゅくあ)のごとくいつまでもつづく成長競争に耐えられず、脱落するクラブも続出する。人は彼らを端境の者、「エンダーズ」と呼んだ。
【了】