香川獲得で流れたロッテとの契約
事実、SBS ESPNで放映されている韓国でのプレミアリーグ平均視聴率をクラブ別でみると、1位がスウォンジー(1.039%)、2位がQPR(1.025%)で3位がマンチェスター・ユナイテッドとチェルシー(0.497%)、4位がマンチェスター・シティ(0.448%)となっており、B氏の言葉を裏付けるような数字となっている。
「パク・チソンが移籍する直前まで、ロンドンの業界筋ではロッテ(創業者が韓国出身の日本企業)がユナイテッドとの3年契約を結ぶのではないか、という有力情報が流れていました。
ところが、パクがQPRに移籍することが決定し、このスポンサー契約は破談になった模様です。同様のことが、香川の今後についても言えると思います。彼が移籍した後、果たしてユナイテッドのスポンサードに魅力を感じる企業がどれだけ残るのか、あるいは出てくるのか。韓国サイドから見ても、大いに興味深いですね」(B氏)
こうして見てきたように、香川真司の加入によって、ユナイテッドはアジアマーケティングによる収益を上げてきた。来季以降、彼が活躍すれば活躍するほど、ユニフォームは売れ、視聴者は増え、パートナーシップを締結したい企業も増えるはずである。
最後に、ユナイテッドの企業へのスポンサーセールスについて、A氏、B氏の意見を踏まえた上で、筆者の個人的な意見を添えておきたい。
私はベガルタ仙台ではマーケティングディレクターとして、福島ユナイテッドFC(現JFL)では運営本部長としてフロント職を歴任してきた。
その経験から言えば、ユナイテッドが日本企業にスポンサーセールスをする、つまり営業する上ではきめ細かい「人と人のつながり」を重視すべきではないだろうか。「プレゼントを贈れば社長も会ってくれるだろう」という戦略は、どう考えても日本においては無謀で、乱暴なセールスアプローチだ。
クラブと企業とがつながる上では、「紹介者」なり「代理店」なりが介在する。時には、義理や人情、仁義といった湿っぽい部分も重要な役割を果たす。それが好むと好まざるとにかかわらず、日本のマーケットなのだ。
ユナイテッドに限らず、他のプレミアクラブもスポンサーセールスにおいては「中間者」「広告代理店」「エージェント」を極度に嫌う。だが、日本をターゲットにする際に、権限を持ち、責任を負う日本人スタッフが担当することはない。
長期的視野で見れば、クラブと日系企業との間に摩擦や軋轢が生まれる可能性は、否定できない。その意味では、まだ歴史の浅い香港オフィスが、どのような役割を果たしていくのか、大いに注目したい。
【了】