「賑やかし役」の存在
惜しくもテレビには映らなかったものの、作戦は異なる形で奏功する。近くを通りがかったリバプールFCの公式フォトグラファーが、見事にその光景をファインダーで捉えたのだ。その写真はほどなくして、アンフィールドのミュージアムの壁に英文解説を添えて掲げられることとなる。
「賑やかしが好き」と照れた口調で語る石井氏。サポーターとしての活動にコミカルな要素を絡めた小ネタを取り入れるようになったきっかけは、リバプールFCのスポンサー、スタンダード・チャータード銀行主催による2011年のフットサル大会だったという。
「当時のエース、フェルナンド・トーレスのレプリカユニフォームで大会に出場するつもりでいました。でもその直前にチェルシーに移籍されてしまった。
そこで、直後に移籍してきたアンディ・キャロルの名前を、白いテープを使ってカタカナで作って、トーレスのネームの上に貼りつけたユニフォームで出場したんです。そうしたら初対面の参加者が多い大会で見事にウケました。『キャロルさん』なんて呼ばれたりして」
30歳を目前にした石井氏が、10歳も年齢の離れた大学生達から「キャロルさん」とイジられる。そんな関係性を自ら求めていく姿勢には、「リバプールFCにまつわるイベントだから、僕達の活動に興味を持ってくれる参加者も多いはず」という期待があった。
以前は出版業界で営業職をしていたという石井氏。大会をエンジョイするだけでなく、PRの機会へとつなげていくメンタリティーは、LSCJの営業マンそのものといっていいかもしれない。石井氏は自身のスタンスについて次のように述べる。
「押しつけがましいのは好きじゃないんです。面白そうと思った時点でサポーターズクラブに参加して楽しんでくれればいい。僕はLSCJのクリスマス会の司会もやりましたが、スタッフとしての肩書なく自由にやらせてもらっています。リベロですね」
組織的な活動と絶妙な距離感を保ちつつも、個人としてのキャラクターで「お祭り気分」をLSCJにもたらしていく石井氏の存在。代表の田丸さんは「彼が盛り上げてくれて助かっています」と笑顔で語る。