「やりきった感覚がなければ次のステージに行けない」
OBの就職先は、金融・保険業、製造業、商業、情報通信業など、日本の主要産業をリードする一流企業がずらりと並ぶ。ただでさえ体育会系の学生は企業から人気で、そこに慶応ブランドが付加されるのだから引く手あまたの状況だ。リスクを抑え、得か損かで道を選ぶのなら、答えはとっくに出ている。
「ふと、なんで自分はこんなに上から目線なんだろうと。大学でプロになれるような活躍をしたわけでもない。実力が通用するか判断できるほど、やりきった実感すらない。それなのにプロになったあとを考えて、わかったような気になっていた」
オフに入り、渋谷や相馬将夏(法政大3年)と久しぶりに集まって話した。小学生の頃から、およそ十年来の付き合いだ。互いの考えていることは、短い言葉で手に取るようにわかる。その場に来られなかった大木暁(駒澤大3年)とは電話で話した。ふだんは冗談しか言わない人間が、真摯な態度で向き合ってくれた。
「最後の1年は、雑念を振り払って、サッカーだけに集中したい。みんなと同じ熱量でプレーしたい。その結果、どうなるかわからないですけど、やりきった感覚がなければ次のステージに行けない。大学生活で自分がやってきたことに自信を持てない。それはサッカーで生きるにせよ、就活するにせよ、きっと同じことです。そう考えたら、頭がすっきりした」
僕の頭には、駅のホームにぽつんと佇む山浦の姿が浮かぶ。それまで乗っていた特急列車を見送り、違う路線に乗り換える。迷った末に決断したからこそ、意志をたたえる強い背中だ。身体の芯に、ほてるような思いを抱えている。
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