歴史に寄り添うクラブ
内に入りすぎると、往々にして本質を見逃すことがある。ぼくはギリェルメの答えに納得しない。
これまで何度もサントスのクラブハウス、試合に通った。つくづく感じるのはこのクラブは歴史に寄り添っているということだ。
スタジアム『ビラ・ベルミーロ』にあるスタッフの部屋にはサントスに縁のある人間の名前がつけられている。例えば、ギリェルメたちの部屋の扉の上には『ビルギリオ・ピント・ジ・オリベイラ “ビルー”』と書かれた黒い鉄のプレートが打ち付けてある。
ビルーはサントスの元ディフェンダーで、1935年にサンパウロ州選手権で初優勝した時の監督である。
下部組織の使用している『メニーノス・ダ・ビーリャ・トレーニングセンター』にはジエゴとホビーニョの名前をつけたピッチがある。また、サントスFCの練習場『キング・ペレ・トレーニングセンター』の壁にはペレの他、70年代の中心選手のコウチーニョ、80年代のセルジーニョ・シュラッパ、ロビーニョ、ジエゴ、ネイマール、ガンソ――サントスで輝いた選手の絵が描かれている。
その中にはギリェルメの上司にあたるリマの絵もある。
ギリェルメはサントスで働き出したばかりの頃、リマたち経験ある人間との差を痛感した。
傘下のスクールに視察に出かけたとき、身体が大きく屈強、身体的能力に長けたセンターバックがいた。いい選手だと思った、ギリェルメがリマに同意を求めると「ボールを持たせてみろ」とだけ静かに言った。すると彼は足技に難があった。
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