結局誰のためにやっているのか
――でも、選手としたら出たいですよね。
加部 確かに、例えば99%プロになることはない選手、これが最後の晴れ舞台だという選手に対して、「お前は怪我を抱えているからやめておけ」とは言えないですよね。
幸野 そうなんですよ。だからその仕組みを変えなきゃいけない。余りにも晴れ舞台すぎるんです。
――地上波で生放送されますしね。
幸野 あれって結局誰のためにやっているのかな、って思います。プロの試合でもないのに、観客・視聴者もその片棒を担いでしまう。育成世代なんだから、選手が主役じゃなきゃいけないのに、他の人たちのためにやっているような感じになっている。
加部 だからとんでもない大会になっているわけですよね。選手権の開会式なんて、式が始まるまで1、2時間あるのに、寒い中、屋外でユニフォーム姿の選手たちを待たせている。せっかくこれだけ大変な思いをしてこの大会に参加できたのに、平気で風邪をひかせるようなことをしている。
幸野 本来であればユニフォーム姿で観客席にいるような選手がいてはいけない。彼らはプレーするためにサッカーをしているのだから。
――最後に、これだけは言っておきたいことはありますか。
加部 『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』を特に読んでほしいのは、これから高校へ行く子どもがいる親御さんですかね。その子にとって本当に幸せな選択は何なのかということを考えて、進路を選んで欲しい。もちろん少しでも多くの人たちに手に取って欲しいとは思っていますが。
幸野 僕も、育成に関わっている人たち、親や指導者も含めて、なるべく多くの人に読んでもらって、考え方を変えるきっかけにしてほしい。こうしたことの積み重ねの中でしかなかなか状況は変わらないわけだから、その一つのきっかけを作っている本だな、と思っています。
【了】