ユヴェントス監督にインタビュー【写真:goal.com】
GOAL JAPANでは、ユヴェントスをセリエA2連覇に導き、今季も3連覇に向けて順調な戦いを続けるアントニオ・コンテ監督にインタビューを行いました。コンテ監督の指導哲学とは? 彼にとってユヴェントスとはどのような存在なのでしょうか?
なお、今後GKジャンルイジ・ブッフォン選手およびMFクラウディオ・マルキージオ選手へのインタビューも掲載を予定しておりますのでぜひお楽しみにお待ちください。
インタビュアー:チェーザレ・ポレンギ(GOAL JAPAN編集長)
―ユヴェントスは少し特別なクラブという印象があります。アニェッリ一族が何十年にもわたってクラブを率いていた影響もあると思いますが、チームに新たに加入する選手に何かそういう話をすることはありますか?
ユヴェントスは素晴らしい歴史を持ったクラブだと思う。このユニフォームを着る者は、その責任の重さを感じることになる。名誉なことではあるが、同時にこの色を身につける重責も背負わなければならない。過去の偉大な名選手たちも身につけてきたものだからだ。非常に伝統あるチームで、勝ち取るべきものはほぼすべて勝ち取ってきた。新たに加入する選手もそういう状況は知っているはずだし、どういうメンタリティーを持ってこれからプレーするべきなのかも分かっている。それでも、ここがどういう場所なのか説明が必要だと感じることもある。ユヴェントスの選手であることの意味や、このユニフォーム、この伝統を背負ってプレーすることの意味を理解させるのも私の責任だ。
―コンテ監督は大学を卒業される際に監督の心理学についての論文を書かれました。選手のメンタル面には非常に気を遣われていると思います。メンタルの強さというものは、選手が若い頃から自分の中に持っているものでしょうか。それとも、監督として教えることが可能なものですか?
少なくとも私個人の経験から言えば、サッカー選手には基礎的な部分として重圧に耐えるメンタルの強さも必要だ。ユヴェントスのようなチームでプレーするのは、簡単ではないことも当然ある。ユニフォームの重みに寿命を縮めそうになるし、才能や責任感や積極性や技術があってもそれを存分に発揮できないかもしれない。監督に求められるのは、戦術の構築やプレーの指導に優れていることだけではなく、チームの管理にも長けていて選手を理解できなければならない。選手がどういうアプローチを必要としているのか、彼らは今どういう時期にいるのか。今は褒め言葉を必要としているのか、小言を言ったり怒鳴ったりすることが必要なのか。勝者のメンタリティーは当然ながら、チームの環境からも生まれるものだ。そういう意味で、監督は教師でもなければならない。私がいつも言っているのは、勝者のメンタリティーを得る方法には勝つこと以外にないということだ。一度勝つことができれば、勝利はあまりにも素晴らしいのでまた勝ちたくなるものだ。
―サッカーにおいては、もう新しいものは何も生まれないという意見もあります。しかしコンテ監督は著書の中で、常にイノベーションが必要だと書かれていますね。
もう何も生み出せないと言う者がいるのなら、もうそれ以上学習する意欲がないということだ。古い伝統や、古いサッカーのやり方にとどまっているということだ。だが、過去は常に乗り越えられていく。サッカーに限らずどのスポーツでも当然のことで、決して破られないように見えた記録も破られていくものだ。練習方法や戦術など、あらゆるものが進化していくからね。
―ユヴェントスはとても先進的なクラブですが、準備や試合においてのテクノロジーの利用はどう思われますか? たとえば選手のフィットネストレーニングや、対戦相手の研究、プレーの分析などですが。
テクノロジーはかなり活用している。非常に重要になっているものだと思う。自分たち自身の試合を見直すためでもあるし、自分たちが正しくやれたことを確認したり、良くなかった部分を見直してそこに取り組んだりするためでもある。相手を研究して試合への準備をしたり、ときには練習を見直すこともある。我々はテクノロジーを活用しているし、そのための良い設備がクラブには整っている。
―通常ユーヴェは、自分たちのやり方で試合の主導権を握ることを目指して、その通りにやれていることが多いと思います。試合への準備をするにあたっては、ユーヴェがチームとして何をできるかという点から始めるのでしょうか。あるいは、対戦相手に合わせるということもあるでしょうか。チャンピオンズリーグのレアル・マドリー戦で少しフォーメーションを変えたということもありましたが。
試合に向けた準備をするとき、私が最初にやるのはまず攻撃面の準備だ。攻めることこそがコンセプトであるべきだというのもその理由だ。相手に対向することが第一ではない。守備面は攻撃の次に来る部分だ。だからまずは、対戦する相手のシステムに対しての攻撃を準備する。もちろん相手の攻撃のプレーや、試合の中で起こり得る状況に合わせることも考えるし、相手チームの試合やプレーも研究する。マドリー戦ではフォーメーションを変更したが、こういう非常に強い相手との対戦の際には考えなければならないこともある。それは、自分たちの本質を失うということではない。マドリーとの2試合も我々は攻撃的に戦ったし、良い結果を得るに値する戦いができていたと思う。だがすべては、自分たちの力と相手の力の関係性の中で行われなければならない。
―ユヴェントスでのこの2年半で、すべてがまさに完璧に機能したと感じられたような試合はありましたか?
非常に満足できたような試合は数多くあったが、完璧な試合というものは存在しないと思う。試合の中では必ず、さらに改善して完璧を目指せるような部分があるものだ。だが選手たちには感謝しなければならない。彼らは私のプレーについての考えや意欲にしっかりとついてきてくれているからだ。この2年半イタリア国内で圧倒的な戦いができているのは、その点が理由でもある。
―現在のイタリアサッカーは多くの問題を抱えていると言うべきですが、その中でも特に今すぐに解決可能な、解決が必要な問題が一つあるとすれば何でしょうか。
問題はすごく根深いところにあると思う。そう簡単に解決できないのは間違いないが、特に頭の痛い問題としてはスタジアムでの暴力の問題がある。サッカーはあくまでスポーツであるべきで、スポーツイベントと捉えるべきだ。だが実際にはそうはならず、ある種の出来事を伴ってしまうことが多い。これは他国では起こらないことだ。より落ち着いて試合を観戦し、スポーツイベントとして楽しめる他国を羨ましく思うこともある。ここでは緊迫感やプレッシャーが、必要でないときにも充満してしまうことが多い。
―イタリアのサッカーはストレスが強すぎると、過去にも何度か言われていたことがありました。もしかすると、いつかは他国で監督をすることもあり得るのでしょうか。トラパットーニやリッピ、アンチェロッティなど、ユーヴェの過去の偉大な監督たちも何人かその道を辿っていますが…
今はここで3年目を迎えて、うまくいっていると言える。監督としての仕事を始めたとき、いつかはここに戻ってくると分かっていた。今は夢に見ていた場所にいるということだ。だが未来については、ユヴェントスでないとすれば国外になると考えるのは自然なことだと思う。異なる現実に向き合ってみたいという思いもある。選手としては機会がなかったが、監督としては間違いなくいつかやることになるだろうね。
―最後に、このインタビューは日本に向けてのものですが、日本のサッカーについては何かご存知でしょうか? コンフェデレーションズカップではイタリア代表とも対戦しましたし、長友選手や本田選手も知られていますが…
日本はすごくインテンシティーの高いサッカーをしていると思う。選手たちは現代的なサッカーに必要な能力をすべて備えている。すごく強くて敏捷で体力がある。技術面や戦術の組織をさらに向上させることができれば、世界のサッカー界の中でも良い意味で危険な存在になるかもしれないね。あとは頑張り続けて、成長を続けることが必要だ。
―いつか日本人選手をユーヴェに連れて来ることもあるでしょうか。
もちろん、いいと思うよ。国籍は気にしていないからね。良い選手であるかどうか、それだけだ。
(協力:J Sports)