クラブを揺るがす、ある事件
それでも、いつもであれば「日本の〇○の記事によれば…」というような後追いの記事が幾らかのタイムラグを経てから流されるが、今回の「仮契約」報道では、それすらない。
まるで、WSWがかん口令を引いたか、メディアが自主規制したのかなどと邪推したくなるくらいだが、これだけあからさまに話題にならないのには、下記のような理由が考えられる。
それは、WSWは、今まさに逮捕者も出したアウェーのメルボルン・ビクトリー戦(12月28日)後のWSWサポーターが起こした騒動の渦中にあるからだ。事件後、豪州サッカー連盟が騒ぎの当事者である両クラブの勝ち点剥奪の可能性を示唆した1月3日までの間、WSWはクラブ全体でこの事件の対応に追われていたことは想像に難くない。
そんな最中に、野々村社長が元旦の試合でスタジアムに姿を見せたところで、多少、表現はきつくなるが「今は契約交渉どころではない」と思われかねない事情があった。
小野の移籍に関する当地メディアの関心も、27日のトニー・ポポヴィッチ監督の「完全否定」を境に一気に下降した。そこから先の彼らの関心は、クラブ全体を揺るがしかねないメルボルンでの騒動の周辺へと移った。
それを受けて、小野の去就に関してはまったく触れられなくなったが、そんな流れの中で、7日の日本での野々村社長の帰国後の発言が、当地オーストラリアでほとんど報道されなかったのも理解できる。
WSW、札幌、小野の周辺のいずれの意向を酌むべき立場にもない筆者としては、「仮契約は水面下に留めておけば良かったのではないか」との違和感を持ったことは隠さずにいたい。
優勝争いのシーズンの真っただ中で、サポーター騒動での勝ち点剥奪の可能性に揺れ、これから未知のACLを戦う過密日程を控える状況下で、「今季限りで小野伸二はWSWを退団します」という内容を高らかに宣言する必要があったのか。