「お前の親父が、試合を観に来れるように奇跡を起こすんだ!」
練習ではレベルによって、A、Bとチーム分けされていた。
1年のときはAチームなんて程遠い状態。周りの選手のレベルも高くて、必死に食らいついていくだけで精いっぱいだった。それでも、2年になると必死にやってきたことが評価されたのか、Aチームで練習することもあった。
「絶対にレギュラーを取ってやる!!」
気合いを入れてサッカーに打ち込む日々。そのときだった――。親父が病気であることを告げられたのは。
末期ガンだとわかったとき、あまりに突然のことだったからか、はっきり言って他人事のように聞こえた。「え? 病気なの?」といった感じで、まるで現実味がなかった。
母親は本人に知らせるべきか迷っていたけれど、ガンが進行している状態では本人に伝えるしかないと判断したようだ。
親父はすぐに入院することになった。病室に行ってみると、親父は僕に対する激励を口にした。
「いいか、俺が病気だからってお前をメンバーに入れてくれるほど、角谷は甘くないぞ。自分一人の力で勝ち取っていくしかないんだ!」
熱い言葉をストレートにぶつけてくるいつもの親父だったけど、お腹はパンパンに膨れていて、顔色も悪かった。
本当に親父はガンなんだ。ようやく僕は事態の深刻さを理解した。角谷監督には、僕から親父の病状を伝えた。
「そうか……」
角谷監督は動揺を隠せない様子で、唇を噛みしめていた。だけどすぐに僕に対する励ましの言葉をくれた。
「お前の親父は病気と戦っている。お前もここで戦って……、試合のメンバーに入ってみろ! お前の親父が、試合を観に来れるように奇跡を起こすんだ!」
監督の言葉がありがたかった。心の中にもやもやしたものを抱えていたけれど、自分が試合に出てその活躍を見せることが親父への良薬にもなる。
絶対にレギュラーになって、試合に出るんだ! 自分を鼓舞しながら、僕は再びサッカーに打ち込んでいった。