突然のボランチ起用
ブラジル代表は、手堅い戦術で94年大会以来の優勝を狙うはずだった。ところが本大会前、予想外の事故が起こる。
チームの要ともいえる、ボランチのエメルソンが怪我、大会から離脱したのだ。直後、フェリポンはジュニーニョを呼んだ。
「ジュニーニョ、君にはこれまでと違ったポジションをやってもらいたいと考えている。中盤の後ろだ」
フェリポンはジュニーニョにボランチのポジションを考えていた。
「大切なのは右サイドバックのカフーが攻め上がったスペースをカバーすることだ」
ジュニーニョは、本来のトップ下に加えて、ボランチの控えとして起用されることになった。
身長160センチそこそこ、小柄で攻撃的な選手であるジュニーニョをボランチとするのは異例である。チームに“異物”を入れず気心知れた人間でまかなうという、フェリポンらしい判断だった。
「どの代表監督でも同じだが、フェリポンの場合は特に好みの選手しか招集しない。彼はチームの雰囲気を大切にする。その雰囲気を乱す選手、そこに入れない選手は外される。とはいえ、フェリポンは気むずかしい人ではない。
規律を重んじる監督ではあるけれど、冗談も飛ばすし、父親のような感じだ。つい最近も連絡をとったばかりなんだ。彼は公私の切り替えがはっきりしている。真剣にサッカーに取り組む時なのか、リラックスする時なのか、理解すれば問題ない」
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