選手権優勝メンバーにも燃え尽きた子は多い
山梨学院付属高校にヘッドコーチとして赴任し、1年目に全国高校選手権優勝を飾った吉永一明は「時代の流れの中で選手権が支えてきたものは大きい。それは絶対に否定のできない事実です」と前置きした上で、現場での体験を踏まえて語った。
「優勝したメンバーの中で、今でも本格的に打ち込んでいるのはひと握りです。どちらかと言えば、バーンアウトした子の方が多い。結局その先が見えて来ないと、目標はそこで終わってしまいます。しかしむしろ大切なのは、その先だと思うんです。勝とうが負けようが、その先を指導者がどう見せられるのか? 本来僕らが評価されるべきなのは、そこだと思います」
3年間で結論を出す。繰り返しになるが、それは日本独特の仕組みだ。クラブ単位での活動が中心になる欧州や南米などでは、基本的に成熟したプロの選手にしかスポットライトは当たらない。もちろんユース以下の年代でも、指導者は勝つことを強く求める。だがそのために成長途上の選手たちに無理を強いることはない。
かつてバルセロナのカンテラ(下部組織)で監督を務めたジョアン・サルバンスは、この年代では年間で最も大切なダービーマッチ(同じ地域のライバル、エスパニョールとの試合)で「どうしても出場したい」というボージャン・クルキッチ(元スペイン代表・16歳でトップチームにデビュー)の直訴をはねつけた。ジョアンは、日本でも指導経験を持つので、高校選手権の盛況ぶりは十分に知っている。
「この時のボージャンにとって、ダービーはクラシコ(スペインの国民的関心事となるレアル・マドリーとの試合)と同じ。それでも本人には、今無理をするべきではない、キミが目指すのは、満員のカンプ・ノウ(バルセロナのホームスタジアム)で活躍することだと言い聞かせたし、他の選手たちには“代わりの選手を信頼しているので何も心配していない”と伝えて試合に送り出しました」