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優勝しても罰走、生徒は使い捨て、自己満足の監督。高校サッカーの不都合な真実

text by 加部究 photo by Kenzaburo Matsuoka

大成した選手の陰で多くの犠牲者が出ている

 実は後述する指導者の教え子も、このAと同じ学校でコーチを中心とした執拗ないじめにあい1年で退学した。コーチには腕にタバコを押しつけられたこともあるというから、もう犯罪の領域である。

 この指導者は、残念そうに吐露した。

「非常に気も強く、国体でキャプテンを務めたことのある有望な選手でした。(同校の状況について)噂には聞いていました。でも噂以上だったんですね」

 この高校には、全国から選りすぐりの選手たちが集まって来る。その結果、こんなことも起こった。

 名将と謳われる監督は、当然Aチームを見ていた。ところが若いコーチが指導しているBチームの方が、優れたパフォーマンスを見せるようになる。すると監督は唐突に言い出すのだ。

「きょうからオレがこっち(Bチーム)を見る」

 こうしてAチームとBチームは入れ替わった。

 つまりこの強豪校は、AとBを入れ替えても結果を出せるほど優秀な選手を集めていたわけだ。だから監督は、生徒たちをコマとしか考えていない。使えないコマ、さらに言えば自分の思い通りに動かないコマは、簡単にベンチに置いて干してしまうのだ。

 一方でこの事例を見れば、Bチームを指導していた若いコーチの方が、監督よりはるかに優れた指導力を備えていたことが分かる。結局しばらくすると、Bチームを指導していたコーチは辞めていく。監督が築いた王国で、自分の信じる道を貫くのは難しいと判断したに違いなかった。

 伝統的な強豪校は、優秀な選手を輩出する。メディアも結果を出した高校の練習方法や姿勢を優れていると喧伝する。その結果強豪校は、さらに優秀な素材を吸い寄せる。

 そんなサイクルが確立されている。

 しかし大成した選手の陰には、こうして多くの犠牲者が出ているケースもある。もともと優れた選手を集めたから勝てるのか、監督の指導力が高いから勝てるのか、本来はそこを掘り下げて検証する必要がある。

【了】

※詳しくは『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』でご覧になれます。

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