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優勝しても罰走、生徒は使い捨て、自己満足の監督。高校サッカーの不都合な真実

体罰やしごきが社会問題になりながらも、未だに一部のサッカー強豪校や伝統校では、行き過ぎた指導が行われている。なぜ理不尽な指導はなくならないのか? このほど出版された加部究著『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(カンゼン)の中でその実態が明らかにされている。(文中のイニシャルは書籍とは異なります)

text by 加部究 photo by Kenzaburo Matsuoka

「サッカーが苦しい…」

 AはJクラブのジュニアユースで活躍し、卒業後は全国でも屈指の強豪校へ進み3年間寮生活を送った。

 卒業後は、Jリーガーになることが決まりかけていたという。だが高校の部活を経て、彼はサッカーが怖くなってしまっていた。心身ともにいじめ抜かれ、ボールを見ると震えてしまう。

「やっぱりサッカーは、もういいや…」

 そう言ってスパイクを置いた。

 中学を卒業する時点で、Aにはいくつかの選択肢があった。本人が望めば、ユースに進むこともできたが、当時はクラブの組織が混乱していた。また地元の高校に進む選択もあり、むしろ両親はそれを望んでいた。だがAは早く親元を離れて自立したいと考えていた。結局両親は本人の強い気持ちを尊重する形で、実家から遠く離れた強豪校に送り出したのだった。

 入学を決める前に、父は監督と面談をしている。実は監督の悪い噂も多少は耳にしていた。しかし実際に会った監督は、非常に物腰も柔らかく、懐の深さも感じた。

「私も昔は殴るのが普通だと思っていました。でも今はダメですよね」

 父は、この人ならしっかりと話もできるし、息子を任せられると思った。

 1年生の時は、順風満帆だった。早々とスタメンで起用され、父がAに電話をすれば、元気な声が返って来た。

 ところが1年生の終わり頃から、少しずつ態度が変わり、口数が減った。父が異変に気づいたのは、2年に進級してからだった。メールで何度か問いただしてみると、ごく短い返信が届いた。

「サッカーが苦しい…」

 しばらくすると「サッカー」は「生きること」という言葉に置き換えられるようになった。

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