「なんか分からへんけど好き」という魔法
次に興味を引いたのは、「なぜか好き」という非常に感覚的な理由を挙げるファンが多かったことである。こちらが柿谷のどこに惹かれるかを問うと、一度「うーん」と深く悩み、考える。そして彼女たちは呟くのだ、「なんか分からへんけど好き」と。
そもそも、「好き」という感情はそういうものである。何か強烈に惹かれるものはないけれど、気付いてみれば好きになっていた――。実際の恋愛のシーンでもよく耳にする話だ。
しかし、柿谷がなぜ人気なのかを知りたいこちらとしては、「なんか分からへんけど」で終わらせるわけにはいかない。引き続き粘ってみると、やはり出てきたのが柿谷の波瀾万丈なストーリー性を挙げる声だった。
天才と持てはやされた過去から強烈な挫折を味わい、今の地位にまで登り詰めた、その分かりやすいまでのドラマ性。日本人なら誰しも感情移入してしまうその更生ストーリーに、世間の女性はやはり自然と惹き込まれてしまうようだ。
実際、柿谷を特集したほぼ全ての記事や番組が、そのアウトラインで構成されている。女子高校生のAさんは、自身の過去の経験が柿谷のものと重なるようで、柿谷の成功に生きる勇気をもらったと言い、この日は福島県から駆けつけた。
また、柿谷のストーリー性を挙げる女性のほとんどが、そういったメディア環境やその演出に大きく影響されていることを自ら認めてもいた。『情熱大陸』をはじめとする様々なテレビ番組で柿谷の過去を知り、マスメディアが付与した“天才”や“救世主”といった称号に、彼女たちの中での柿谷像は自然と大きくなるのだ。
まさに、「なんか分からへんけど好き」状態である。共感せざるをえない何かしらのストーリーを持ち、周囲から注目を集め密かに話題になること―。これが2つめのモテポイントだ。