「プロになるしかないんです。ただし、卒業はしたいと思っています」
「おれと違って、鉄平くんは勉強ができるんです。大きな誤算でした。これから大学進学を考える後輩には、慎重に考えて決めろと言ってあげたい」
法学部なんて、字面からしていかにも融通が利かなそうではないか。なぜ、そこに気がつかない。法律には、これっぽっちも興味がないのに。
「自分は追い詰められました。プロになるしかないんです。ただし、卒業はしたいと思っています。親には遠征や合宿でたくさんお金を遣わせてしまったので、返していかなければいけないですし」
卒業が危うい。よってプロになるしかない。ふたつには論理的な飛躍があるが、大木はいたって真面目な顔である。
「ほかのみんなは、ちゃんと単位取ってるのかなぁ。やってぃ(渋谷亮・中央大3年)と新ちゃん(山浦新・慶応大3年)は頭がいい。あのふたりは単に勉強ができるだけじゃないんです。サッカーでも賢いプレーができる。
一方、健ちゃん(南部健造・中京大3年)は仲間っぽいので、期待してます(笑)。あいつはサッカーに対してストイックなんですが、ちょっとおバカちゃんなところがあるから心配ですよ。頼みの綱のサッカーでつまづいたら、どうなってしまうのか」
こらこら、人のことを心配している場合か。それぞれの単位取得状況は把握していないが、大木ほど苦戦している様子は伝わってこない。なお、プロ入りにおいて、卒業資格が必須かといえば、そんなことはないのが実情だ。単位を取りこぼし、プロ生活と並行して5年目の卒業にこぎ着ける例は珍しくない。それを断念し、中退に至るケースもある。