知将の静寂がもたらしたもの
引き分けさえすれば16年ぶりのワールドカップ出場が決まることになっていた予選第17節。コロンビアはホームにチリを迎え、前半のうちに0-3と大きくリードされていた。
会場となったバランキージャの街は、試合の2週間ほど前から大いに盛り上がっていた。チケットは瞬く間に完売し、ホテルはどこも満室。国民の誰もが、感動の瞬間を心待ちにしていたのだ。
人々のそんな思いを知っているだけに、前半を終了し、ハーフタイムにピッチから引き上げるコロンビアの選手たちは苛立っていた。
ロッカールームで不機嫌な表情を見せる選手たちを前に、当初、ホセ・ペケルマン監督は何も言わなかった。しばらくの間沈黙が続いたあと、ようやく口を開いた。
あの時、ペケルマン監督が何を話したのかは、その場にいた者にしかわからない。わかっているのは、静寂の間に選手たちが落ち着きを取り戻したこと、そして、士気を高める激励の言葉の代わりに、後半からのプランをポジションごとに、具体的に説明したということだ。
ペケルマンは、そういう監督である。決して選手を叱咤激励するような真似はせず、物静かで、必要最小限のことしか話さない。だが、その最小限の言葉は実に的確でわかりやすい。
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