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リアルな数字『3.5倍』にまでなった解任オッズ。モイーズ監督はなぜマンUを“常勝”気流に乗せられないのか?

シリーズ:フットボール母国の神髄 text by 森昌利 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

ファーガソンが築いた絶対王政

 そんな燃えるような誓いを立てて、45歳のスコットランド人がマンチェスター・ユナイテッドにやって来た。そしてその後、26年間の監督生活を通じてこの言葉を実践し続けた。

 この禁に触れたものはことごとくクラブを去った。2003年のディビッド・ベッカムがその最も有名な犠牲者だろう。

 まさしく帝王的な存在だった。そんなファーガソン監督の叱咤がどれだけ効果的だったことか。もちろん、前監督が希代のモチベーターだったことは否定しない。しかし、その背景として、サポーターが「クラブにとって誰よりも重要な人間」と忠誠を誓い、オーナーのグレイザー一家さえも足元にひれ伏した“絶対的監督”という立場があった。

 ロナウドを例外(しかし、個人的にはマンチェスター・ユナイテッドに残っていればさらなる栄光に包まれた可能性はあると思う)にして、ファーガソン監督にクラブを追われたスター選手の大半が、かつての輝きを取り戻すことなく静かに消えていった。その事実が闘将の神通力をさらに強めた。

 こんな監督の下なら、文字通り選手も死ぬ気でプレーしたことだろう。もちろん、ハーフタイムに怒りの標的になるのはまっぴらだったに違いない。こうしたファーガソン監督の存在が、マンチェスター・ユナイテッドの選手達に大量のアドレナリンを放出させた。

 一方モイーズといえば、マンチェスター・ユナイテッド監督に就任以来、印象が変わった。エヴァートン監督時代はもっとぴりぴりして、取っ付きにくい存在だった。

 昨季の開幕戦、香川のプレミア・デビュー戦だったモイーズにひとつ質問した。「マンチェスター・ユナイテッドの新加入選手の印象は?」と。すると気難しい狐のようなとがった顔をしたスコットランド人は、「マンチェスター・ユナイテッドが獲ったんだから、いい選手なんだろう」と、気のない返事を返したものだ。

 翌日の日本の新聞はこのコメントで、「敵将も香川を『いい選手』と褒めた」という記事を作っていたが、正直その答え方は「そんなこと俺の知ったことじゃない」というものだった。

 ところがマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任してから、モイーズの対応は変わった。かなり友好的になったと思う。

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