今季にない“攻めだるまモード”
今季のマンチェスター・ユナイテッドの試合を観ていてまず痛感するのが、ギアが変わらないということだ。ギアが変わるというのは、プレースピードが上がるということ。昨季までのマンチェスター・ユナイテッドは、このメリハリがものすごいチームだった。
凡庸な前半だったと思っても、後半は選手が見違えたように動きはじめた。プレーのテンポが如実に上がり、相手のDFを崩しはじめる。一度ゴールを決めてしまえば、試合はそこまで。そこからは“赤い悪魔”と化したマンチェスター・ユナイテッドが次々とゴールを奪って、最終的には大勝。そんな試合ばかりだった。
まるで喧嘩神輿を見ているような攻撃。わっしょいわっしょいと、攻めだるまになる。1点や2点相手がリードしていても、一度マンチェスター・ユナイテッドがこの“攻めだるまモード”になったら止められない。最後には必ず勝利を握った。
ギアを変えたのは、間違いなくファーガソン監督だった。
ハーフタイムには有名な「ヘアードライヤー・トリートメント」(熱風療法)と呼ばれる叱咤激励があった。
香川も昨季「こんなに怒る人だとは思わなかった」と話し、ファーガソン監督と過ごした凄まじいハーフタイムを述懐しているが、前半でミスを犯した選手、やる気が見えなかった選手は、烈火の如く激怒したスコットランド人が鼻先まで顔を近づけて来て、この世で考えられる最悪の罵倒の言葉とともに、叱咤されたという。
そのファーガソン監督は、昨年、アメリカのハーバード大学の講演会でこう述べていた。「マンチェスター・ユナイテッド監督に就任した際、絶対に自分より上の存在をクラブ内に作ってはならないと、そう決意した」と。
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