一番長いサポーターからの一言
その試合後、選手バスでの帰路につく間、ケータイに電話がかかってきた。試合を観ていた加奈子夫人からだった。
「その電話で言われたんですよ。『もう見ていられない。10年以上の付き合いになるけど、こんな中村憲剛の姿は見たことがない。もう休んだ方が良い』って」
その言葉で、中村はハッとし、どこか肩の荷が下りていくのを感じたという。
「奥さんから『ケガをしていたとわかったら、サポーターもまだ望みが持てるでしょ? 休むのも仕事だよ』と言われて、『はい』って言いました。
あそこで休むのはすごく勇気がいることだったけど、休もうと決めた。でも、それがよかったことを自分で証明できて本当によかった」
彼はケガの治療に専念する決断を下し、5月には万全の状態で復帰。6月には日本代表としてコンフェデレーションズカップに出場し、帰国後はトップ下として得点を量産。「中村史上一番良い」と自分で宣言するほど圧巻のパフォーマンスを披露したのである。
それに伴い、チームの成績も上向いてきている。そして最終節ではリーグ戦5位にまで巻き返してきた。だがあのとき、加奈子夫人の一言がなければ、この復活劇はなかったかもしれない。大学時代からの付き合いである夫人について、中村はこう感謝の言葉を述べる。
「普段はサッカーの話はしないんだけど、たまに挟んでくるとすごく核心を突いてくるんですよ。俺の一番長いサポーターですからね」
史上最悪から史上最高の中村憲剛になった今シーズン。そのターニングポイントになったのは、紛れもなく第6節の横浜F・マリノス戦だった。そして最終節で再び迎える神奈川ダービーで、リーグ戦を締めくくる。
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