まるでマフィアのボス。恐怖政治でメディア支配
一説には、記者陣に「心理戦」を仕掛け、自らに好意的な報道を促したとの見方もある。他監督とのマインドゲームはあまりにも有名な彼一流の心理戦術だが、日常的に接するメディア陣にもそれを仕掛けていた、という見立てだ。
メディアの過剰な批判報道により、パフォーマンスを落とすクラブはこれまで数多く存在した。それゆえ、フットボール報道がエンターテイメントとみなされるサッカーの母国では、なおのこと、メディア管理がそのまま重要なチーム管理術になると言える。
試合前の会見はファギーにとっては、一歩たりとも譲歩できない鉄火場だったのである。
オールド・トラッフォードの会見場に現れた指揮官は、赤ら顔で登場。まずは会場の記者陣をひと睨み。席につくと憮然とした表情で一問一答に応じる。そして、突如として表情を崩すとジョークで笑いをとる。
そして、再び憮然とした表情。質問が一通り終わり、指揮官が会場から去ると、隣に座った地元記者から「今日は機嫌が良かったな……」との安堵のつぶやきが聞こえてきた日もあった。
その“つかみ方”はまるでマフィアのボスのようであった。
とはいえ、ファーガソンは過去に行った記者の出入り禁止措置に対し、個人的な感情は一切なかったと語っている。そう、すべてはチームの勝利のための戦略だったのだ。
そのことを地元記者たちも理解していたからこそ、クラブの練習場であるカーリントンでの最後の試合前会見では、すべての記者が万雷の拍手でこの名将を送り出したのだろう。
【了】