ポジションを争うライバルが復帰したが…
この世界にほんのわずかしか存在しない絶対的強者を除いて、シーズン中には、どんなチームも連敗といった苦しい状況を耐えなければならない。そんなとき、酒井はどういった形でチームに貢献したいと考えるのか。
「僕が出来ることというのは、本当に、試合に出して貰っているときに、テクニックとか、そういうことではないので、人より多く走ること、人より多くパスコースを作ることだと思う。守備だったら対人であったり。
SBというポジションは、人のために走るようなポジションなので、そういうところで貢献出来たらいいなとは常に思っています」
堅実的な考え方を持って、苦しいチーム状況の中にあって、着実に酒井は成長を続けていた。10節のホッフェンハイム戦のあと、「集中力が欠けてしまう部分が元々多い」として課題として挙げた守備も、安定感を増してきている。
91分には、酒井のライバル、怪我で長期離脱していたチェルンドロが遂にピッチに足を踏み入れた。ベンチには12節から座り続けていたものの、ゲームに出るのはこれが今シーズン初めてのことである。永きに渡りチームの顔として存在し続けている右SBは、万雷の拍手で観衆に迎えられた。
興味深いのは、交代が同じポジションの酒井とのものではなく、右SHのフスティとのものだったことである。そこにはこの試合奮迅の活躍を魅せたフスティへの労いと同時に、チェルンドロの復帰をファンに示す監督スロムカの意図が見えた。一方で酒井はスロムカの信頼も勝ち得ている、ということだろう。
確約されたポジションなどあるはずもないが、この試合を観る限り酒井を替える理由は見当たらない。チェルンドロに先発の座を明け渡さず、着実にチームの勝利に貢献していくことが出来れば、後に成長の証としてその日々を振り返ることが出来るだろう。
ベンチにチェルンドロが座る限り、酒井宏樹は、成長せざるを得ないのである。
【了】