試合の中でアジャストする能力
サッカーは90分のチーム走行距離が110~120キロに達するハードな競技だが、それだけに流れの中でスペースは刻一刻と変わる。ディフェンスの選手が集中していても、ちょっとした切り替わりでギャップも生じるが、選手の消耗が激しくなるほどそのギャップも大きくなる傾向にある。
大久保は試合前の事前情報に増して、試合の中で生の情報を得ながら、相手の隙が生まれやすくなる後半により活かしているわけだ。同時に彼自身が試合の中でアジャストしていることもある。
風間監督は大久保について「精神的にも素晴らしい強さを持っている」と評価するが、それは単純なタフネスではなく、試合の中で相手を観察しながらチャンスを見極め、最後まで慌てることなくゴールを狙えるストライカーのメンタリティのことだろう。
“先手必勝”という言葉がある通り、先に得点を奪ってしっかい逃げ切ることは勝負の王道とされる。もちろん大久保も立ち上がりから得点は狙っているはずだが、90分の結果を争う競技において、試合の中で見えてくる相手の状況、駆け引き、体力的な消耗を総合的に活用し、90分の中で仕留めることが実際に勝負には求められる。
それをしっかり実行しているのが今季の大久保であり、彼の能力を引き出しているのはチームだ。最終節の横浜F・マリノス戦は相手が優勝をかける大一番だが、川崎にとっても重要な締めくくりの試合になる。
そこでも大久保の得点力、特に後半のそれがカギになるはずだが、試合のスタートからしっかり観ていくことが、後半を楽しむポイントであることは間違いない。
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