ゲッツェのゴール。そして静寂
ドルトムント側の人間からは憎悪で、バイエルン側の人間からは歓喜で迎えられる様を見ながら、これでゲッツェがゴールを奪ったら、スタジアムは一体どうなってしまうのか。ゲッツェがボールを持つたびに、ブーイングが辺りを引き裂く。
人間の原初の感情がスタジアムを渦巻いていた。見せかけの戦術論や技術論は、もはや何の意味もなさない。しかしそれこそが、古代ローマの円形劇場から、現代のスタジアムに到るまで、観衆が劇場で表現してきたものなのかもしれない。
途中出場したゲッツェは期待を裏切らなかった。66分、ミュラーからのグラウンダーのクロスを、着実にトラップ、冷静にゴール左隅に突き刺した。プロ・フットボーラーとして着実に仕事をした。
そして意外にも、ゲッツェがゴールを奪ったあと、スタジアムを覆ったのは、沈黙、だった。バイエルンのゴール裏が沸騰し続ける中、ドルトムント側は、静寂に包まれた。不謹慎を承知で言わせてもらえれば、この世の物とは思えないブーイングを期待していただけに、少し拍子抜けした。
他ならぬゲッツェに決められて、ドルトムントの人たちは、明らかにショックを受けている。途中出場以来ゲッツェに向けられていた剥き出しの憎悪は、愛憎だったのだ。ゴールのあとの沈黙と静寂は、哀しみだったのである。
ドルトムントは時折カウンターで応酬したものの、85分にロッベンに嘲笑うかのようなループを、そして87分にはミュラーに息の根を決められて、勝負は決した。スタンドを離れる人が増えはじめた。それは勝利を諦めたというよりも、バイエルンのユニフォームを着てピッチに立つゲッツェをこれ以上見たくない、ただその想いのようだった。
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