香川の「気の利いた」プレーで日本が優位に
試合が15分を過ぎると、香川はベルギーのDFが「自分についてくる」と悟って、今度は意図的にサイドのタッチライン沿いにポジションを移してボールを持とうとした。香川が見せた状況判断を理解した「気の利いたプレー」によって、ベルギーの守備に問題が出てきた。
もともとベルギーは、日本がピッチ中央で数的優位を作ろうとするやり方を嫌って、あえてサイドの場所を捨ててまで真ん中のフィールドをケアしてきた。しかし、香川がサイドに張るプレーをしたことで、ベルギーの選手全員が香川のいる左サイド(ベルギー側から右サイド)に移動することになった。
そうなると、今度は日本の右サイドのスペースが空くことになる。日本の同点弾となった酒井宏樹のセンタリングからの柿谷のヘディングは、このような局面の変化によってもたらされたと言えるのである。
日本がベルギー戦で見せた攻撃戦術は、オランダ戦の後半で見せたやり方だった。つまり、オランダ戦の前半とはまったく違ったやり方だったのである。
おそらく、オランダ戦の前半のやり方は、ピッチをワイドに使いたいという監督のザッケローニのやりたいスタイルで、後半のやり方は選手たちが望んだやり方であろう。そうでなければ、あれほどの違いは一試合を通して見られないからだ。欧州遠征を1勝1分と勝ち切った日本だが、勝利の中に別の二つの顔(攻撃戦術)を見せた日本代表だった。
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プロフィール
監修:林雅人
1977年生まれ。日本体育大学で選手として活躍したのち、2000年からオランダへ渡り、1部リーグのSBVフィテッセ・アーネム(SBV Vitesse Arnhem)でU‐11からU‐19までコーチ、監督を務めた。日本人初のオランダサッカー協会公認1級ライセンスのほか、ヨーロッパサッカー協会公認A級ライセンスを取得。2008年に帰国後は、東京23FCコーチ、浦和レッドダイヤモンズ監督通訳を歴任し、2012年よりフェリーチェサッカースクールにてコーチを務めている。