立ち上がりの10分でフランスは流れを取り戻した
『W杯プレーオフの歴史で、1戦目を2-0で負けたチームが勝ち抜けたことはない』、などという生々しい統計を突きつけられたフランスには、ほとんどアウト、勝てば奇跡!という空気が漂っていた。お天気お姉さんは、「勝ったらヌードになる」と宣言するわ、「髪を金髪に染める」と公約するキャスターは出るわ、応援よりも諦めの風潮の中、当事者である選手たちは腹をくくったのだろう。
「ここで負けたら、もうしょうがない。とにかくあれこれ考えず、やれることをやってやろう。」
そんな吹っ切れた精神状態は、プレッシャーを、ポジティブな活性剤に変えてしまった。
対照的に、有利な立場で乗りこんでくるウクライナには、「リードしているんだから勝ち抜けて当然、絶対負けられない、いや、負けるわけにはいかない」という心理状態がめぐってきた。
国民はもうほとんどブラジルに行ける気になっている。
あとはしっかり守って90分をしのいでくれれば……と期待は膨らむ一方。そして、期待がふくらめばふくらむほど、選手たちのプレッシャーも大きくなり……。
試合開始10分で、フランスは3度、ゴールを煽った。最初はバルブエナ、続いてポグバにベンゼマ。
この最初の10分で、フランスの“心意気アピール”は十分だった。
と同時にウクライナ勢の動きはどんどん鈍くなっていく。立ち上がりからガチガチに堅かったが、もう体が動いていない、という状態。
そして22分にサコの先制点が決まると、フランス勢にはさらにエンジンがかかった。1点を返したことで同点の可能性が近づいたと見るや、レ・ブルーはスコアではまだ負けていたにもかかわらず、精神的には完全に風上に立った。
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