縦への揺さぶりがディフェンスラインにズレを生じさせる
「GKが取れないボールを上げるのを意識していて、中は誰かいるなぐらいしか見ていない。そこでうまくマークを外して入ってきてくれたというのが大事なポイントだった」
柿谷曜一朗の同点ゴールを得意のクロスでアシストした酒井宏樹はそう振り返った。右サイドに流れた本田圭佑を追い越しながら、ディフェンスラインの裏を突いて縦パスを受け、そのままの勢いでクロスを上げる。そして右センターバックのファン・ブイテンのちょうど頭を越えたボールに走り込んだ柿谷がヘッドで合わせた。
クロスの質は酒井宏樹ならではだが、ここで大事なのは縦の動きがある中でクロスが出されたこと、相手の対応とずれた軌道にアタッカーがタイミング良く合わせたことだ。
ファン・ブイテンは197センチ、柿谷の外側にいた右サイドバックのアルデルヴァイレルドも187センチある。彼らを相手に177センチの柿谷がクロスから、しかもヘッドで決めたということは、縦に揺さぶりながらタイミング良くクロスを上げれば、身長に関係なく勝つことが可能ということを証明する。
重要なのはクロスを上げる選手が縦にディフェンスラインを破ってすぐにクロスを上げることと、そこにアタッカーが飛び込んで合わせていくことだ。酒井宏樹が縦に仕掛ける、あるいは裏に走りながらボールを受けると、相手のディフェンスラインは裏のケアに走る。そうなるとボールの方を見ながら下がるため、視界から消える形となり、位置関係にもズレが生じるのだ。
そこからちょうどディフェンスの間に入って来る選手は守る側が瞬間的に捕まえにくい。しかも、ディフェンスの合間にボールが入ってくると、背の高さに関係なくアタッカーはフリー同然で合わせることも可能だ。この場面では酒井宏樹のクロスがファン・ブイテンの守備範囲に落ちなかったこともあるが、「すごく良いボールが来たので合わせるだけでした」と語る柿谷が、相手の死角からクロスのポイントに入っていったことが見事だった。