凍てつく大地に生まれたあたたかな絆
20時開始の“デーゲーム”には1468人の観客が「KRヴォトルル」に集まった。空には雲一つなく、眩い西日がスタンドに差し込むも、海風は今日も冷たい。寒さに関係なく芝が青々育つのは、日照時間のお陰だ。
試合前にローリング・ストーンズのナンバーが流れ、観客全員が総立ちして拍手で選手を迎えるのは英国文化さながら。KRを指揮するのは、昨季8年ぶりのリーグ優勝に導いたルーナル・クリスティンソン。
アイスランドで唯一代表100キャップを超えるKR生抜きの若手監督だ。元ウェールズ代表CBリス・ウェストンを除けば選手全員がアイスランド人だが、個々の特徴を上手く組み合せ、中盤以前が頻繁にポジションチェンジする。
観客は手拍子とブーイングを織り交ぜながら、一つひとつのプレーに敏感に反応した。規模は違えどプレミアリーグと同じ香りがレイキャビクに漂う。
この試合で強風よりも影響を与えたのは主審だった。KRが前半35分にPKで先制すると、終了間際にはペナルティエリア外のファウルにかかわらず再びPKを得て2-0。IBVは後半に巻き返して同点に追いつくも、75分にIBVのハンドを取った主審がまたしてペナルティースポットを指差すと、さすがに観客はどよめいた。
FWキヤルタン・フィンボガソンはPKのみでハットトリックを達成。ドラマは最後に待っていた。ロスタイムに主審が帳尻合せでPKをIBVに提供。
しかし、代表GKハンネス・ソール・ハルドールソンが敵のシュートを止め、3-2でタイムアップ。凍えながら応援を続けた観客は大団円に満足し、子供と一緒に帰途に就く中、少年たちはせっせとスタンドのゴミを拾い集めていた。父親がKR元会長という案内役ヨナス氏の言葉が思い出される。
「アイスランドではスポーツがコミュニティの基盤だ。学校を卒業した後も、スポーツクラブを通して人的交流が続けられるんだ」
厳しい気候や環境だからこそ人と人の繋がりは必要だ。横の繋がり、縦の繋がり、地
域の繋がりがスポーツという媒介を通して一層と強くなる。アイスランドのクラブハウスやスタジアムに大家族のようなムードが漂うのはもっともだ。