オランダ代表という共通項
ここに、ベルギー前首相の名言がある。
「オランダ語圏とフランス語圏の相違は積み重なり、溝は深まっている。両者の間で共通に残っているものは何か? 国王、サッカーチームと、いくつかのビールだけだ」
前首相は失言が多く、ついには辞任に追い込まれた人なのだが、この言葉に限って言えば、なかなか確信を突いていて気が利いている。
まず、連邦国家にもかかわらず立憲君主制を敷いている。これは極めて珍しいらしい。しかも国王一家の出自はドイツだったりする。この絶妙なバランスで国家が成り立っている。
ビールについては、いまさら説明は不要だろう。ただし、こちらも「うちがナンバーワン」と各地で主張するだろうから、決して一括りに出来るものではない。
みなさんがベルギービールをいただくときには、ベルギーの〝どっちの地域の″ビールなのかを気にしてみるのもいいかもしれない。
サッカーのクラブチームにはローカルファンがほとんどだが、ベルギー代表に限っては、オランダ語圏もフランス語圏も、ましてやドイツ語圏などといった隔たりはない。
代表サポーターが掲げている旗には、ときたま2つのエンブレムや、その両方を合体させたエンブレムが付いている場合がある。
オランダ語圏のトレードマークは、ブラバント公の紋章である「赤い舌を出した横向きの獅子」だ。一方のフランス語圏のトレードマークは、フランスを表す「ルコック(雄鶏)」だ。
『代表の時ぐらい、一緒にやろうぜ!』ということらしい。
互いの言葉を解す人が多いので、たとえ応援歌がオランダ語であっても、フランス語圏のファンは歌うことが出来る。逆もまたしかりだ。代表においては、みな同志というわけである。
【次ページ】日本戦の会場ではかつて悲劇が