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戸田和幸という生き方(後編)

text by 大泉実成 photo by editorial staff

「たいへんだったけど、楽しかったなあ、生きてるって感じがしましたよ」

──当時は日本のサッカー界全体に、そういった知識の蓄積がなかった。

戸田 段階を踏むということの重要さですね。時には背伸びすることも大事ですけど、やっぱり着実に、ひとつクッションをおいてからチャレンジした方がいいんじゃないかなと。

──以後の世代のための蓄積になります。

戸田 そうですね。まずしっかり慣れて、それから自分をヨーロッパで見せる。あそこでは、良ければすぐに話が来ますから。市場が日本とは桁外れにでかいですからね。自分は自分なりにせいいっぱいやったので悔いはないですけど、いまだに口惜しさは残ってますね。後悔はしていないですけど。

──オランダでもう少し続けたいというのはあったんですか。

戸田 もちろんありましたけど、お金の問題でダメでした。小さなクラブ(ADO・デンハーグ)だったんで、EU圏外の選手に払う最低年俸が高くて、払えなかった。僕はお金はどうでもよかったんですけどね。

 名古屋にいたウリダがチームメイトで、ちょっと日本語がしゃべれたから助かったし、オランダの人はやさしかったなあ。いろんな人種がいますし、小さな国なのでコミュニケーション能力が高い感じがしましたね。英語でのコミュニケーションも取りやすかった。

──お互いが母国語じゃない英語だと、かえってよく通じる。

戸田 そうそう。だからもっとやりたかったですね。トゥエンテとやった時かな。かなり上位のチームとやって、すごいいいプレーができて、足がつって85分ぐらいに交代したんですけど、そのときのスタンディングオベーションだけは忘れられないですね。他チームからのオファーを狙ってギリギリまで待っていたんですけど、あまり長引くとエスパルスに失礼になりますから。たいへんだったけど、楽しかったなあ、生きてるって感じがしましたよ。

 夢の世界を体験した戸田は、日本に戻り、Jリーグという「現実」と再び対峙することになる。

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