カルーセル麻紀を歌う佐山一郎
──そういう境地に達すると、本の見方というものも一般消費者とはかなり違ってくるように思うのですが、いかがでしょうか?
佐山 なんかね、気がつくと出版の世界で長くなっていたので、雑誌なんかでも後ろから読んだりするんですよね。雑誌の後ろの方を見て、手を抜いていないかどうか見るんですよね。
──編集者が、ですか?
佐山 そう。ちょっと大げさに言えば、どんな時でも出版人である自分を忘れるべきではないと思うんです。明日が世界の終わりであっても、本を作ったり読んだりというね。根性論とかじゃないけど、読んでもらいたいとか、届けたいとかの強い意志。
孤立無援に近い自分ひとりの価値観で、世界を変えてみせるゾという気概みたいなもの。そんな熱い思いがあっても伝わらない厳しい時代だからこそ、もしそれが成就できれば人一倍幸せなことだと思うわけですよ。
──なるほど。そんな佐山さんご自身は、最初から物書きのお仕事を志していたんでしょうか?
佐山 いや、実は他のこともやっていたんです。十代から音楽をやっていて、フォーク、ロック、ハードロックって進化していったんですよ。ジャズは聴くだけでやるほどのテクはなかった。
いちおう、ヤマハの賞取ったり、グループでレコード1枚出したりはしてるんです。東宝レコードの同期に草刈正雄さん、あとカルーセル麻紀さんなんて人もいます(笑)。
──カルーセル麻紀も歌っていたんですか?
佐山 歌っていましたね。そんなことを1972年から73年ぐらいまではやっていて、20歳で見切りをつけたんですよ。それからは、音楽、ファッション、インタビューと、もっぱら書いたり編集したりする方に。作業としては地味だけど、飽きずに死ぬまでやれる仕事だなとは当初から思っていました。