100億だった独占放映権料
プロ野球の日本シリーズを、テレビで見ていた。ソファーに寝そべり、柿の種をポリポリ。楽天は右腕の美馬が好投し、巨人の打者を軽快に打ち取っている。いい気味だ。アンチ巨人の家庭で育ったがゆえの性質は身体に沁みついている。
私には日常的に野球を見る習慣がない。そんな人間がチャンネルを合わせるのだから、頂上決戦にはそれなりの引力がある。
第3戦を中継する日本テレビは、思いのほかビギナーにやさしい番組作りをしていた。「先に4勝したほうが優勝」といった当たり前のことから、「延長は15回まで」「予告先発制有り」などのレギュレーションをまめにアナウンスする。その一方、選手の細かい特長や審判の経歴など、マニアックな情報を入れ込むのにも余念がなかった。
日本シリーズの開幕戦、視聴率は関東エリアで20%を超え、楽天の地元である仙台では40%超えの数字を叩きだしたそうだ。
Jリーグが2015年からの導入を推し進める2ステージ制+ポストシーズン。これにより約10億円の増収に加え、チャンピオンが決定する山場を盛大に露出したい狙いがある。簡単にいってしまえば、日本シリーズのように世間の関心を集めたい。はたして、その試みにどの程度の勝算があるのだろうか。
テレビ業界において、日本代表の試合はキラーコンテンツだ。しかし、数字が取れないJリーグは、その価値を数段低く見積もられている。そもそも両者はファン層の厚み、ターゲットの大きさが異なり、単純に比較できるものではないが、それはサッカー界の論理。テレビ界の論理はシンプルだ。要は、2時間の枠でどれだけの視聴者を引き寄せられるか。それがコンテンツの価値を示す。
Jリーグの露出拡大に向けた取り組みについて、テレビ業界に詳しい堀田壽一氏に訊いた。堀田氏はNHKに入局し、報道カメラマンを経て、スポーツ報道センターのチーフプロデューサーを務めた。Jリーグ創成期からのサッカー中継の現場を知る人物だ。97年、NHKを退局し、現在はフリーランスのスポーツプロデューサーである。
堀田氏はJリーグブームに沸いた頃を振り返り、こう語った。
「当時、在京のキー局が中継するのに、放映権料は1試合につき3000万円。けっこうな価格でしょ? でも、あの頃の人気からすれば当然の価格。もうちょっと高くても買い手は付いただろうね」
ブームが去りしのち、Jリーグは方針の転換を余儀なくされる。
「96年だったかな。独占放映権料を買わないか、という提案があった。話を持ちかけてきたのは木之本興三。木之本ってのは面白い男でね。『買ってやろうか。で、いくらだよ?』って訊いたら、『100億だ』と言い放った」
年間100億円とは、ずいぶんと強気に出たものである。現在、Jリーグはスカパーを中心に、TBS、NHKの3社と契約を結び、2012年度の放映権収益は43億8700万円だ。96年のJリーグは16チームで構成され、いまより試合数はずっと少ない。結局、このときは諸事情により特定の局と契約を締結することなく、話は流れてしまった。