実は重症だったガンソ
彼に聞きたいと思っていたのは、2010年W杯メンバーにガンソを入れなかった理由だった。
ネイマールを落としたのは、似た種類のドリブラー、ロビーニョがいたからだろう。しかし、ガンソは違う。懐が深く、ボールキープが巧みな選手だった。ディフェンスに囲まれても一瞬で隙を見つけて正確なパスを出す――ブラジルが望んでいた本物の「10番」だった。
南アフリカ大会で10番をつけていたのはカカだ。ぼくはカカから「もっとも気に入っているのは8番だ」と聞いたことがある。本来は10番の選手ではないことを彼は自覚していた。
もし、あの代表にガンソがいたとすれば――同じように世界的には無名だったドイツ代表のエジル以上の評価を受けたことだろう。そして、W杯を踏み台に世界的な選手へと一気に成長したかもしれない。
W杯メンバーには入らなかったものの、その後成功の階段を上るネイマールと比べるとガンソはくすぶっていた。
「どうしてガンソを2010年W杯に招集しなかったの? 彼にはそれだけの力があったように思えるけど」
ドゥンガはちょっと考えた後、口を開いた。
「怪我をしていたんだよ」
「怪我? あの時?」
「そうさ。かなり重症だった。だから、問題だったんだ」
それ以上、彼は口をつぐんだ。
ガンソを外したことで彼はかなり批判を受けた。ガンソの将来を考慮してのことだろう、ドゥンガは公の場で彼の怪我に触れることはなかった。自分に対する批判は受けとめる――自分の流儀を本当に変えない人だと、ぼくは彼の横顔をしげしげと見いった。こういう人こそセレソンの監督に相応しい。
ただ、惜しむらくは彼の率いたセレソンはW杯アフリカ大会準決勝でオランダに敗れたことだった。これも勝負の厳しさである。
【次週へ続く】