リスク回避のための3つの方策
1つ目が、抱えるリスクの内容を的確に判断すること。ピッチ外での理不尽なトラブル、という観点からとらえれば、給料の支払い状況、暴力事件の有無、人種差別の程度、不正試合の可能性といった観点から状況を探っていけば、ある程度の状況は見えてくるだろう。
2つ目はリスクの発生を抑止していくことだ。給料支払いに関していえば、非公式の書類に条件を記載しているだけの選手は、給料を期日通りに受け取っている割合が31.8%に留まる。
しかし各国サッカー協会公式の契約書に給料を明記している選手は、61.4%の確率で給料を期日通りに受け取ることが出来ている。契約交渉の過程で妥協せず、クラブが本来持つ責任を果たすように仕掛けていくことが重要だ。
3つ目はリスク発生時の影響を最少化することだ。「何があっても海外でプレーする」というような強い覚悟を持つこと自体は賞賛されていいだろう。しかし東欧については、自国選手ですら日々の生活や生命そのものが危機にさらされることも多発しているのが実情だ。
マイノリティーとして飛び込んでいく日本人にとっては、「事件に巻き込まれそうになったらいつでも出国する」という心づもりが必要だろう。「リスクを取る」という言葉は、潜在化するリスクから目を背けるだけの見せかけの勇敢さではなく、リスクが顕在化した時に自分のキャパシティーの範囲内で解決できるように、あらかじめリスクを最少化しておくプロセスの上で成り立つべきだ。
国際サッカー選手会は、ギリシャ、キプロス、トルコの3ヶ国からの紛争案件が年々増加している傾向にあることを指摘している。さらには、FIFAが大量案件の処理を迅速化するべく、法務部署を近年拡大させていることについて「案件解決に向けてFIFAがより多くのリソースを投入していることは喜ばしいことだ。
とはいえ、それが意味しているのは、新たな弁護士を要する未解決の案件が大量に存在しているということだ」とも述べている。ピッチ外の理不尽なトラブルによる、海外に移籍した日本人選手のキャリアが犠牲になる事例が、今後新たに増えることのないよう願ってやまない。
【了】