W杯で残った満足感と不完全燃焼感
W杯という大きな舞台を終えた当時の心境を、加藤氏は次のように振り返る。
「W杯というのはサッカー選手、指導者、関係者にとっては目標、夢でもある。そこで一つのタスクを終えて、満足感とやり残した感を持ちながら日本へ戻ってきたんですね」
“やり残した”というのは、日本が敗退した決勝トーナメント一回戦のパラグアイ戦だ。
「無得点、無失点のままPK戦で去らなければいけなかった。僕らの最大の目標は岡田(武史)監督が打ち上げたベスト4でしたから、そういう意味でも次のスペインとやりたかった。自分たちの力がどれくらいあったのか試したかった。それがとん挫したというか、経験できなかったことで、悔いみたいなのが残りましたね」
そんなタイミングでヴィタヤ氏からチョンブリFCのGKコーチへ招かれた。
「南アフリカW杯が終わって、サッカーに残り何年関われるか、次にどういう方向へ行こうか、模索している時に話をいただいた。国内、海外は問わず必要とされるところに行くことがベストだと思い、チャレンジしてみようと思いました」
2011年から始まったタイでの指導も3シーズン目。GKという特殊なポジション、タイ人にありがちな気質も絡んで、指導する上で課題となるのはやはり言葉の問題だという。
「GKというのはメンタル面がプレーにすごく影響を及ぼします。どうやって選手の不安を取り除いて自信に結び付けるか、逆にストロングな部分にどう働きかけて、確固たる自信へ結び付けていくか、それが日々の作業です」
「日本では言葉の障害がないから、選手の心理面にもどんどん入っていける。タイではそこまで僕にタイ語の能力がないから、どうしても英語とタイ語を交えた会話になって、(指摘が)ストレートに強くなってしまう。
それをどう改善するかが課題です。タイの人は人前で自分のミスを指摘されることにはすごくネガティブ。反発することもある。だから言うのを我慢してタイミングを待とうとか、すごく気を使います」