「行動をフリーズさせる」守り方
そうしたトライの結果、もしボールをロストしても吉武監督が責めることはないが、少しでも躊躇してせっかくの隙を逃してしまうと、練習を止めて質問する。そこで選手に明確な意図があるなら厳しく言われることはないが、「常に意図を持つ」ということを大前提に置いているわけだ。
“96ジャパン”に特定の司令塔はいない。もちろんフリーマンの杉本太郎や左利きの仲村京雅の様に特別な攻撃ビジョンやパスセンスを備えた選手はいるが、それはあくまで彼らのスペシャリティであり、攻撃に関わる選手の全員が主体性を持っている。
誰に預けたから終わりではなく、イメージを自分で巡らせる中で仲間と“共鳴”していくことが、流動的な攻撃を生み出すのだ。
一方の守備は、組織としての一体感がより求められるものだが、“全員攻撃・全員守備”を掲げる“96ジャパン”において守備もコンセプトの根本は変わらない。相手の仕掛けを待って対応するのではなく、自分たちから相手を追いこみ、「行動をフリーズさせる」(吉武監督)ことで、守っている側にありながら相手を支配することができる。
初戦のロシアは前線に個人能力の高い選手を揃え、平均身長が170cmにも満たない日本のDFラインがどう対応するか興味深かったが、実際は自分たちから相手の自由を奪うことで、個の力を発揮させない守備を心掛けている。
それがロシア戦はうまくはまったが、ベネズエラ戦はロビングボールからの競り合いを起点に何度か危険な場面を迎え、実際に1失点してしまった。
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