「ハナシないでしょ」
内田篤人の魅力とは何だろうか。
10月17日、ゲルゼンキルヒェン、FC シャルケ04練習場――。
空を見上げると、雲は絶え間なく、速く流れていた。雲の隙間から、ときおり光が射し込んできたものの、少し肌寒い。
目の前では日本代表の連戦から戻ってきた内田が、練習に打ち込んでいる。少し疲労の色が窺えた。コンビネーションの確認の練習で、繰り返し前線に駆け上がっていく。ふと、内田の背中が見えた。柔らかくて、優しい背中だった。
そんな内田を見ていて、今日は色々と質問をするのは止めることにした。その行為が、何だか野暮ったいもののように思えてしまったのだ。練習は終わり、ミックスゾーンに内田がやってきた。
――そろそろ、疲労が溜まってきていませんか?
「いや、疲れていないです」
真っすぐ前を見据えながら、内田は言った。眼は、黒く澄み渡っていた。静かに佇んでいる。透明な瞳は、そのままプロのサッカー選手としての矜持を現しているようだった。
わずかに言葉を交わして少し間が空くと、「ハナシないでしょ」とニヤリと笑って、内田は踵を返した。
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