ほとんど面識がなかった山内と伊藤
この試合で実現した「日本人対決」の当事者に話を移そう。シドニーからアウェーに乗り込んだシドニー・ユナイテッドに所属するのは、小柄ながら鋭い動き出しと豊富な運動量で大柄なオージーの中で存在感を発揮してきた山内祐一。
熊本の大津高校、福岡大学、地元のロアッソ熊本を経て、渡豪直前のシーズンではVファーレン長崎に所属したJ2経験豊富な28歳のFW。2年前に来豪、今季からシドニーの古豪シドニー・ユナイテッドに監督に請われ移籍、レギュラーとしてチームの攻撃の一翼を担い、クラブのNSW州制覇に大きく貢献した。
一方、地元・オリンピックの攻守の要として、シーズンを通して体を張り続けたのが、この試合でも常に声を出しチームを鼓舞し続けた伊藤和也。
セレッソ大阪のジュニア・ユースから大阪の清風高校を経て、関西サッカーの雄・阪南大学を卒業した26歳の伊藤は、昨季までJFLのMIOびわこでレギュラーとして4年プレーした経歴を持つ。正確なパスと鋭い読みで相手の攻撃の芽を摘むバランス感覚に長けたボランチだ。
「おそらく、JFLで対戦したことがあるはず(伊藤談)」という2人は、試合前まではお互いを「どうやら相手にも日本人がいるらしい」くらいの認識で、面識は無いに等しかった。しかし、激しい打ち合いをアウェーのシドニー・ユナイテッドが4‐3で物にした試合の後、両者は、時折笑顔を交えながらピッチで長く話しこみ、お互いの健闘を称えあった。
山内のシドニー・ユナイテッドは、この試合に勝って進出したファイナルを制し、初代の「NPL王者」のタイトルを獲得。オーストラリア2年目のシーズンで大仕事をやってのけた山内は、「自分の新たな可能性を探って、違う国のリーグでチャレンジしたい」と本人が語るように、既に今季限りでオーストラリアを離れることを決め、今後は他国リーグへの移籍の道を探る。