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連載コラム 11年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。ドゥンガが支援した貧民街の現実

突然振りかかる不幸

 めいめいにハンバーガーのセットを頼んで席についた。ドゥンガがハンバーガーを食べていると、目の前に座っている子供がハンバーガーに手をつけていないことに気がついた。彼は付け合わせのフライドポテトしか食べていないのだ。

「どうした、ハンバーガーは嫌いなのか」ドゥンガが尋ねると、その子は慌てて首を振った。

「折角のハンバーガーだから、家に持って帰って、兄弟と一緒に食べたいんだ」子供ははにかんで、下を向いた。

 周りを見ると、同じように薄紙に包まれたハンバーガーをそのままにしている子供が沢山いた。ドゥンガはしばらく言葉が出なかった。

 子どもたちの上に不幸は突然降りかかってくる。ぼくが施設を訪れた日は「誕生日会」が行われていた。

 扉を開けると、長テーブルが並べられており、子供たちが「ハッピーバースデー」を歌っていた。子供たちの前には、ろうそくの立った小さなケーキがあった。子供たちは嬉しそうに手を叩きながら、大きな声で歌を歌った。

 ドゥンガの姿を見つけると、子供たちは嬉しそうな顔をした。

 ここにいるほとんどの子供たちは、経済的な余裕がないことから、親から誕生日を祝ってもらうことはない。毎月まとめてではあるが、誕生日会を催し、小さなケーキを調達して、祝うことにしているのだ。

 歌を先導していたスタッフの一人がドゥンガに駆け寄って、耳元で話し始めた。すると次第にドゥンガの顔が曇っていった。

 歌が終わって、ケーキを食べ始めると、彼は一人の子供のところに行き、腰をかがめた。小学校に上がったばかりぐらいの年端のいかない子供だった。

 少年の親は、麻薬組織の抗争に巻き込まれて、先日殺されてしまったという。

 少年は、何も言わずドゥンガの首にしがみついた。ドゥンガも目を閉じて、少年を抱きしめていた。

【次週へ続く】

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