子どもの頃に気づいたブラジル社会の歪み
「ぼくたちは全てを手に入れた世代なんだ。オリンピックで銀メダル、コパアメリカでは二度の優勝、コンフェデレーションズカップ、ワールドカップでも優勝した。サッカーで得られるものは手にしてきた。サッカーがどれだけの力を持っているのか、理解している世代なんだ」
ドゥンガがブラジル社会の歪みに気がついたのは、子どもの頃だ。木材を打ち付けた小さな家が立ち並ぶ一角、石ころだらけで雑草が生えたピッチで練習試合をする機会があった。
相手チームの揃いのユニフォームは色褪せて、ぼろぼろだった。話を聞くと両親がいない子どもも多いという。将来はサッカー選手になるつもりだったが、弁護士になって貧しい人たちの役に立てないかと頭の片隅で考えたこともあった。
彼がチャリティ活動を始めたのは、ブラジルから、ドイツのクラブに移籍してからだ。自分の私財を供出するのはもちろんだが、広くブラジルの状況を欧州でも知らしめる必要があると、チャリティマッチを企画した。
そして現役引退後、『ドゥンガ財団』を設立、ブラジル南部のポルトアレグレの街にある貧民街で大掛かりなチャリティ活動に取り組むようになった。
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