13年シーズンは「失敗」だったのか
その姿に誰よりも励まされたのは青野だったのかもしれない。仕事の合間を縫ってはグラウンドにやってきて、勝てない苦しさのなか、選手たちが前向きにトレーニングに取り組む姿を見ていた。
活躍を期待された新戦力が怪我などにより離脱しがちだったことについても「最もつらかったのは選手本人。どれだけ忸怩たる思いでいたか」と思いやる。「試合に出ていなくても、若手へのアドバイスなどピッチ外での仕事も評価している」とは、青野がチームを細やかに見守っていたからこその言葉だ。
「中断期間は本当に悩みました。戦力を補強したかったが、ここで資金を注ぎ込んではならないと我慢した。大事なのはJ1残留よりもクラブの存続だからです」
愛するチームを強くしたい。だが、過去と同じ轍を踏んではならない。目先の勝利より長期的視点に立って選択するという点で、社長と指揮官の哲学は響きあっていた。
J1残留は果たせなかったが、クラブの健全さを維持し、チームのスタイルを育てたという意味で、今季の戦いは決して失敗ではないと青野は判断している。数字だけでは表せない価値を、クラブは確かに見据えているのだ。
一方で、課題も山積している。
J2に見合う予算のなかで、今季の収穫をいかに次へとつなげるか。田坂監督の去就をはじめ、チーム編成も難しい問題だ。当然、多くの選手たちに対して今季と同等の条件では契約できない。
具体的にはまだ白紙の段階と断りながら、「今季J1で経験を積んだ若手を中心に、その若手にアドバイスできるような経験豊富な戦力をミックスしていきたい」と柳田強化育成部長はビジョンを明かす。契約交渉にあたっては、メンバー個々に誠実に対応していかなくてはならない。
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