噂に違わぬ厳しい物言い
「ここで話をしてしまおう。なんでもいいから遠慮せず、聞いてくれ」
レオンはソファーに深く腰を下ろして足を組んだ。
少し前、日本代表が98年W杯出場を決めていた。日本のサッカーを知るレオンに日本代表について話してもらうという企画だった。まずは、当たり障りのない質問から始めることにした。
「アトレチコがここまで勝ち進むとは思っていませんでした」
アトレチコ・ミネイロはブラジル全国選手権で第二ステージに進出していた。
「そうだな。決してうちは強いクラブではない。でも一人一人が何をすべきか分かっている」
少し考えてから「しかし、まだ選手が足りない。キーパーもいいのがいないんだ」と付け加えた。
アトレチコのキーパーは誰だったかなと、ぼくは記憶を探った。
その時、アトレチコ・ミネイロの白と黒のジャージを着た選手たちが通り過ぎた。レオンに気がついた選手はこちらに向かって会釈した。その中の一人、頭が禿げかかった白人には見覚えがあった。タファレルだった。
タファレルは94年W杯アメリカ大会の最大の功労者の一人である。イタリアとの決勝戦を制したのは、タファレルが読みの鋭いキーパーで、PK戦を得意としていたからだ。セレソンの正キーパーがいるにも関わらず、いいキーパーがいないと言い切るのは、噂通りだった。
レオンは癖がある性格で知られている。
黄金のカルテットの一人、ソクラテスに話を聞いた際、レオンのことに触れたことがある。それまで冗談まじりで、陽気に話をしていたソクラテスの顔が強ばった。
「俺の前でその名前を出すな」
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