右と決めたら右に向かって突き進む
これまでの人生に悔いのない人間などいるだろうか。
もしあそこで行動していたら――。
違う道を選択していたら――。
もっと努力をしていたら――。
過去のある瞬間に立ち返りたいと願うことは決して珍しい行為ではない。
だが、少なくとも一人だけ「後悔」に縁遠い人間がいる。中澤佑二である。
以前、サッカー人生で最も難しかった選択について尋ねた時だった。中澤はしばらく黙って考え込んだ後、感慨深げに語り始めた。
「今まですべて悩みながらきているんですよね。高校を卒業後にブラジルに渡った時も周囲に『ブラジルに行きたい』とは言ってましたけど、最後の最後まで悩んだし、その前に遡れば、高校選びにも悩みました。中学の時にはサッカーを続けていいかどうかも悩んだ時期があった。だから振り返ると悩んでることばかりなんですよ。
でも、それでも選んだ道を自分なりに信じてこれたとは思います。だから悩んだことは決して遠回りというわけじゃないし、間違っていてもいないのかなと思うんですよね。要は右か左かってなった時に、いったん右となったらそっちの道を信じるしかないんですよ。右と決めたら右に向かって突き進む。それができたから、結果的に周りからも成功しているように見えるんだと思います」
全国的に無名だった高校生が単身ブラジルに渡り、プロ入りを引き寄せた。その経歴だけを見れば、自身の目標に向かって一心不乱に邁進したであろうことは想像に難くない。だが、中澤は始めから自分の進む道を決めていたわけではなかった。むしろ、その逆だったのだ。
中澤の自己評価。それは、なかなか決断できない男、である。
「僕は優柔不断なんですよ。だから、悩むんです。ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ悩む」
だが、一般的な優柔不断と異なるのはその後だ。
「悩むけれども、一度こうと決めたら突き進めるというところが自分のいいところなのかなと思うんです。やるって決めたらその時点で今までのことは全部振り返らなくなっちゃうんですよ」
プロという夢舞台にたどり着くため、自身の中で思い描いたいくつものルート。その一つ一つの道を選び抜く過程では多くの人のアドバイスに耳を傾け、自分の中で自問自答を繰り返した。果たしてこれでいいのか。間違っていないのか。そして最終的に導き出した答えは、最後まで信じ抜いてきた自負がある。
それが中澤の生き様なのである。