個々の土台に歴史観があれば“滋養強壮ドリンク”のような本は淘汰される
──最後の質問です。20周年を迎えたJリーグは2ステージ制とポストシーズンの導入に舵を切りました。何やら殺伐としたサッカー界ですが、この本以外に読んでおきたいサッカー本はありますか?
「まずは、<和を以て貴しとなす>聖徳太子の『十七条憲法』と同じ17条でできている日本サッカー協会審判委員会著『サッカー競技規則<2012/2013>』(JFA)を(笑)。
ルールブックはある種の大前提ですが、やっぱり力作の歴史物じゃないですか。後藤健生著『日本サッカー史-日本代表の90年-』(サッカー批評叢書/双葉社・2007年)、『同・資料編』や『ブライアン・グランヴィルのワールドカップ・ストーリー』(賀川浩監修、田村修一、田邊雅之、近藤隆文ほか訳/新紀元社・2002年)などは、早く増補改訂版を出して欲しいです。
個々の土台の上にきちんとした歴史観があれば、滋養強壮ドリンクのような本は、いずれ淘汰されてしまいますよ。連載開始とタイミングが合わなくて俎上に載せていない本も何冊かあります。八百長フィクサー集団を扱ったデクラン・ヒルの『黒いワールドカップ』(山田敏弘 訳/講談社・2010年/原題 “THE FIX SOCCER AND ORGANIZED CRIME”・2008年)あたりが代表格ですね。
あとこれは別のところでも言ったんだけど、是非、図書館直行だけは避けていただきたく……。実はつい先日、同業者が『センセイのご本、いつも拝読しております、図書館で』とやられて、腰砕けになりました。美人奥様風の女性に『大ファンなんです! …息子が』なんてパターンも作者を深く傷つけます(笑)。
殿「この本、いずれで仕入れたか」
家来「日本橋魚河岸でございます」
殿「それは、いかん、さんまは目黒、さやまは書店に限る」
…おあとがよろしいようですね(笑)」
一度、佐山氏に読み終わったばかりの本を見せてもらったことがある。付箋が上下左右に貼られ、メモ書きもびっしり。ここまで心血を注いで読み込むのか、と驚いたことがある。
「プロの編集者や書き手の読書量不足をどう思う?」と遠い目をして言われ、ぐうの音も出ない私に「入魂の一冊には、本気で向き合わなければいけない。だから凄まじい<気>を浴びてヘトヘトになります」と語っていたのが忘れられない。
毒にも薬にもならない「紹介」だけで終わる新刊評が多いなかで、工夫をこらして書評しようとする姿勢は荒行に挑む修行僧を思わせた。
単なる書評集にとどまらぬ、良書とは? 批評とは? そんな課題を根っ子のところから考えさせてくれるユニークな本である。私もこの本の編集を手伝ったので手前味噌になるが、書物の粗製乱造に歯止めがかからぬ時代であるからこそ是非とも読んでおきたい一冊だ。
【了】